【レビュー】一人の女を救った夜、その先に続くのは地獄か?それとも?―『本気のしるし《劇場版》』




『ほとりの朔子』『淵に立つ』『よこがお』など日本だけでなく海外の映画賞にも輝き、国内外でますます注目度を高める深田晃司監督。

齢40歳とまだまだ今後も楽しみな監督の新作は、何と名古屋の地方局で人気を集めたTVドラマの再編集版。

深田監督がTVドラマを撮ってたことすら知らなかったんだけど、このストーリーが本当にすごい。

こんなドラマ今まであったの?レベル。

概要を言えば、仕事熱心で気は優しいが本気で人を愛せない青年(森崎ウィン)が偶然出会った謎の女性(土村芳)を助けたことから、その女性にじわじわと私生活を振り回されていく話。

主役から脇役に至るまでキャスディングも演出も素晴らしかったけど、何よりも先の読めないストーリーが戦慄。

監督自身が「共感度0.1%」と言い放つキャラクターの言動と物語の展開はまさに怪談レベル。

ポスターにも書いてあるように衝撃の恋愛怪談映画『寝ても覚めても』を彷彿させる、うすら怖さをあらゆる場面で感じることができる。

中にはイライラや怖さを通り越して笑いがこみ上げてくるシーンも。

実際、客観的に見るとある意味救いのない無限地獄が240分も続くのに、尺の長さも気にならずにぐいぐい話にのめり込んでしまえるのは、監督のギリギリのユーモアセンスによるところも大きいかもしれない。

もっとも、ただの怪談要素の強い恋愛映画ではない。

物語の展開とともに、恋愛とはまさに不条理そのもの、と言わんばかりのテーマが次第に確かな輪郭を帯びていく。

そして現実世界では合理的な行動ばかりとりがちな大人な自分たちは、気付くとその不条理を通して大きな感動に包まれてしまうのだ。

TVドラマの再編集映画としては異例のカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションにも選出された本作、恋愛の本質である不条理性にもっと理解のありそうなヨーロッパでもきっと大旋風を巻き起こしてくれそうだ。

 

『本気のしるし《劇場版》』 あらすじ

退屈な日常を過ごしていた会社員の辻一路はある夜、踏み切りで立ち往生していた葉山浮世の命を救う。彼女と関わったその日から、辻は次々とトラブルに巻き込まれていく。魅力的だが隙と弱さがあり、それゆえ周りを巻き込んでいく浮世と、それに気付きながら、なぜか彼女を放っておけない辻。辻は仕事や人間関係を失いながら、破滅への道を歩みだす…。

■出演:森崎ウィン 土村芳 宇野祥平 石橋けい 福永朱梨 他
■原作:星里もちる「本気のしるし」(小学館ビッグコミックス刊)
■監督:深田晃司 
■脚本:三谷伸太朗/深田晃司
■製作:メ~テレ
■配給:ラビットハウス

©星里もちる・小学館/メ~テレ